「ナマケてるんじゃない、省エネなんだ」
■「マルオくん、こんにちは。」
○「お兄さん、こんにちは!」
■「うん、いい返事。嬉しくなっちゃうな。」
○「元気に爽やかな返事をしとけば、たいていの人が勘違いするから便利だねっ!」
■「……ええと、きょうはね。有名だけど知られてない、ある樹上の動物についてお話しするよ。」
○「わーいわーい、なんだろう?」
■「ヒント1、完全に草食。」
○「ってことは、無節操に雑食なサルじゃないねぇ。」
■「ヒント2、もさもさと毛深い。」
○「鳥でもトカゲでもなく、毛皮を獲られまくったコアラでもない……。」
■「ヒント3、すっごい少食。」
○「食べないってことは動かない……あ、分かった! 英名 sloth!」
■「そう、その名も貴きナマケモノだ!」
○「当たった当たった! それにしてもナイスチョイス。怠け続けて三十年、そろそろ後が無くなってきたお兄さんだもんね!」
■「そーいう誤解を解くために、お兄さんきょうも熱く語りますよ。」
○「ぼくも暇じゃないから、短めにね!」
■「……まず! ナマケモノはある種の毒草しか食べない。だから他の動物と争うことがないんだ。」
○「へーっ。お兄さんが他人に背を向けてるのも、ひとつの生き残り戦略なの?」
■「おほん。でもってさらに、彼らは一日に8グラムしか食べない。」
○「ええっ。それはいくらなんでも無茶だよ。体重はどのくらいだっけ。?」
■「4キロぐらいだね。ちなみに身長は60センチ。」
○「体重の0.2パーセントって尋常じゃないよ! ナマケモノってヨガの奥義でも修めてるの?」
■「あはは、そうかもしれない。彼らがあんまりに動かないから、発見当初は『風を食べて生きる動物です』って紹介されたくらいだよ。」
○「そんな生物を見つけたらノーベル賞ものだよ!」
■「まあ、珍しい生き物だったのさ。ここまで食べずに済むのは、やっぱり動かないからだよね。彼らは食べた葉っぱをゆっくり50日もかけて消化する。」
○「毒性のあるものを食べるってのは楽じゃないんだよねー。」
■「筋肉も最低限、体温調節も最小限。ひたすらにミニマルな生活を突き詰めていった結果が、この一日に20時間も眠る生き物ってわけ。」
○「アリクイなんかと同じ貧歯目だから歯も最小限!」
■「変温動物に近いから、雨が続くと体温が上がらない。すると消化活動が進まなくて、動くエネルギーさえ足りなくなったりする。」
○「え……ってことは、その先は……。」
■「もちろん餓死だね。」
■「ま、そうならないように、ナマケモノは朝日を浴びるのが好きだよ。」
○「なんかほんと、仙人か植物かって感じ。」
■「そして動かないってことは外敵に見つかりにくいってことでもある。年を経たナマケモノは体にコケが生え、なおさら見つかりにくい。」
○「ナマケモノはスナイパーになるといいんじゃないかな……。」
■「彼らは食事・睡眠・交尾・出産・育児までぜんぶ樹上で行う。死んでも樹につかまりっ放しっていうから、すごいよね。」
○「なんかもう樹の一部だね。」
■「でも週に一度の排泄のときだけは地面に降りてする。しかもちゃんと枯れ葉をかけて始末するんだ。」
○「なにその徹底した隠遁……!」
■「……そんな訳で、彼らは別に怠けてる訳じゃあないってことが分かってもらえたかな?」
○「うん。ぼくたちとはテンポが違うってだけで、必死に生きてるんだねぇ。これからはお兄さんのことナマケモノだなんて呼ばないようにするよ。だってナマケモノに失礼だもん!」
■「あれ……それって結構ひどい……まあ、いいか。」
○「ってなところで、また来週ー!」