「築きしは地底の王国」

■「やっほー。みんな元気ですか。きょうは二人で東京の上野動物園まで来ています。マルオくん、これがお目当ての小獣館だよ。」

○「やっほほーい! つまりは、小さな体でどこにでも入り込み、ウィルスみたいに ばんばか増える、ネズミどものねぐらってわけだね!」

■「小動物ってのは高体温・頻繁殖・短寿命が基本。小さい体で広範囲に活動するから、消費エネルギーがすごいんだ。」

○「small body で食いまくり。さんざん荒らされた食糧の恨みは深いよ、お兄さん。」

■「人類ってのは穀物の貯蔵によって安定と発展を得たからね。ネズミたちはどうしても不倶戴天の敵になっちゃう。まあでも今回は、ネズミでありがながらネズミでない、こいつらがテーマだよ。」
○「地下だから暗い……って、なんだこれ! 『しわしわの焼き芋』がいっぱい動いてるよ!」

■「あはは。こいつらこそ動物界、脊索動物門、哺乳綱、ネズミ目、デバネズミ科の『ハダカデバネズミ』さ。」

○「裸で出歯の鼠……あまりにもそのまんま! 英語名も Naked Mole Rat だしっ。ん、無毛ってことは地上に出ないの? 眼もごま粒みたい。」

■「そう、こいつらは完全地中棲。何キロにもなる巣穴を掘って、100頭ものコロニーを形成するんだ。」

○「哺乳類のくせして、アリに近い感じだね。」

■「そう! この動物はアリやハチに良く似ている。コロニーの頂点に女王がいて、繁殖は彼女だけが行うこと。兵隊役や世話役、穴掘り役など階級による役割分担がしっかりしていること。これをして真社会性(eusociality)を持つという。」

○「カーストって真の社会構造なんだ。へーへーへー。」

■「まあ、なんだ……安定するのは確かだよね。哺乳類の群れにはボスがいて、多かれ少なかれ役割分担するわけだけど、群れ全体が女王のために働くってのは他に例がないんだよ!」

○「レアケースを見つけると興奮しちゃう、研究者の悲しい性……。」

■「あは。ハダカデバネズミは無毛の変温動物。木の根が主食で、完全なる地中暮らし。だから天敵はせいぜいヘビくらいだ。」

○「また哺乳類にあるまじき変温動物!」

■「そうだね。恒温であるがゆえに外気の変化に対応できるわけだけど、体温を上げ下げするのにはコストが要る。ナマケモノもそうだけど、安定した生活形態を極めたなら変温のが楽なんだろう。ちなみに、巣穴のなかは一年中30度くらいだよ。」

○「ふーん……。あ、この赤ちゃんネズミを乗せてじっとしてるのは何?」

■「それは通称フトン係。赤ちゃんが冷えてしまわないよう暖める役だ!」

○「女王ネズミに踏まれてる……。楽なんだか辛いんだか。あと、天敵はヘビくらいって言ってたけど、兵隊役ってヘビ用なの?」

■「そう。しかしヘビにネズミは勝てない。巣穴に進入されたら、走っていって食べられるのが彼らの役目になる。」

○「えー……それってスゴイ話。ほんと昆虫みたいだなあ。」

■「ちなみに彼らはネズミとは思えないほど寿命が長い。飼育下では30年以上も生きる。」

○「普通のネズミは3年くらいだっけ。へーへーへー。って、ナマケモノと同じくらい生きるんだね。」

■「この長寿命に関しても研究が進められている。なんだか体がものすごく丈夫なタンパク質でできているらしい。この辺が解明できれば、いつか『老化を防ぐ薬』ができるかもね。」

○「ハダカデバネズミに学ぶアンチエイジング!」

■「みなさんも機会があったら、この小さな社会的動物に会いに行って下さい。見てて飽きないですよー。」

○「カーストの一員として きりきり働く自分の姿が見えるかもね! じゃ、まった来週ー!」


(参考文献:岩波科学ライブラリー 生きもの『ハダカデバネズミ―女王・兵隊・ふとん係』 吉田 重人, 岡ノ谷 一夫 )