「フグは食いたし命は惜しし」

ふるふるグローブフィッシュ


フグって美味しいですよね。とくにフグの白子(精巣)なんてものは、もう世界で一番じゃないかっていうくらい……。

そんな旨さと同じだけ、フグは強毒で有名です。フグ毒、テトロドトキシン (tetrodotoxin, TTX) は種類によって保有部位が異なりますし、見分けや捌き方をミスれば冗談抜きで命に関わるため、調理には免許が必要になっています。

え、白子は大丈夫なのかって? そうですね。オスの精巣だからかは分かりませんが、メスの卵巣よりかは、無毒な種類が多いようです。(ほんと種によって違うので、素人判断はお避け下さい)

ところでところで。2mgでヒトを殺せる猛毒をたっぷり含むこのフグたちを、毒抜きして食べてしまう文化が日本にはあります。(そこに至るまでどれだけの犠牲があったんでしょうね……)
「河豚の卵巣の糠漬け」

世界でも石川県のある地域だけに特有なこの料理は、まずフグの卵巣をきっつい塩漬けにするところから始まります。(全量の1/3もの塩を加えると言うからすごい話です)

3ヶ月目に塩を取り替え、さらに9ヶ月。徹底的に塩蔵です。

この過程で ぎゅぎゅっと水分が絞り出され、フグ毒も一緒に出て行きます。この時点で毒の濃度は1/200。ちょっとぐらい食べても人間なら死なないレベルです。ただまあ、これだと塩っぱいだけなのでここから2年間ほど糠漬けにします。

こうすることで発酵食品ならではの風味が足された上に、毒量がさらに1/10ほどに薄まります。……ただこっちの方は、なぜ減毒されるか未だに謎。

加熱滅菌した糠漬け卵巣と、非滅菌の糠漬け卵巣とに それぞれフグ毒を添加し、それから24時間貯蔵しても両者に違いが見られなかった、なんていう実験結果があります。もしかすると非生物的なプロセスが起きているのかもしれません。

さておき、足かけ3年もかけて作られるこの「河豚の卵巣の糠漬け」。お味の方はというと! ……ええと、どうなんですかね。私が食べたのは本物ではないかも知れないのでコメントは差し控えます。経験がある! 美味かった! という人がいたら教えて下さい。

それから、大分にもフグの肝を特殊な方法で洗って無毒化し美味しく頂く文化があるそうです。ただ、こちらの技法は詳細不明。まあ石川のとは違って法律的にもかなりブラックに近い灰色ですし……。でも、糠漬けとは違って新鮮な肝。毒さえなければ美味しいに決まってるので、機会があればぜひ味わってみたいものですね。(そして厨房を覗かせて頂きたい)

……はい。そんなフグの話でした。禁忌の味は甘いものですが、冥土の土産にはせぬよう気をつけましょう。

それでは皆さん、また来週〜。


参考文献